オオクニヌシの決意

神賀詞

オオクニヌシもまた、地上を穏やかにするために飛び回った。こしの国の八口やくちを平定しに行く途中、意宇おうの郡を通ったときに、そこの樹林が盛んに茂っていた。

「これから遠い国へ向かおうとしてる、僕の心を高揚させるはやす景色だなぁ」

そういうわけで、その村を拝志はやしの郷と呼ぶようになった。
それから八口の神々を従わせて、出雲へと帰ってきたオオクニヌシは、長江山ながえやまに登った。

「あぁ、いよいよこの時が来たんだなぁ。思えば色々あったよね……全国の美女をコンプリートしに行ったり、外から来た敵を迎え撃ったり、仲間と一緒に国を造って豊かにしたり……こうして今、僕が治めてる国だけど、天の神のご子孫にお譲りしようと思う。きっと平和な世としてお治めくださるだろうし、そうであってほしい。だから、お任せしよう。
……ただ、幾重にも雲が折り重なり八雲やくも立つ出雲の国は、僕が住まう国として、青々とした垣のように山々を周りに巡らし、珍玉うずのみたまを置いて、これからも守っていこう」

そう言い終えると、オオクニヌシは晴れやかな表情を浮かべた。彼が苦労して造った国だったが、ニニギに譲る決意を固めたのだ。

出雲大社

出雲にゆかりのある神として挙げたものの、これまでその子供たちばかり取り上げてきたカムムスビ。オネェな彼に、ようやく出番が回ってきた。彼は面食いだったので、オオクニヌシのことを気に入っていた。

オオクニヌシくんったら、なかつ国を、アマテラスちゃんのお孫ちゃんに譲る決心をしたのねぇ。んもぉ、顔だけじゃなくって心までイケなんだからぁ」

ねっとりとした口調で、興奮気味に独り言を漏らしたカムムスビだったが、何かひらめいたらしく、ぱんっと手をたたいた。

「あっ、そうだ。ミトリはいるかしらん?」

「お呼びでしょうか?」

彼の声に応えたのは、子のアメノミトリだ。

「ちょっとお願いがあるのぉ。とぉっても照り輝く天の神の神殿とねぇ、おんなじ規模で、千尋ちひろもの長ぁい縄で、百八十か所も念入りに念入りに結び下げて、高天原規格の寸法で、あめの下をお造りになった大神おおかみこと、オオクニヌシくんの宮を造ってほしいのよぉ」

「かしこまりました」

丁寧に頭を下げると、アメノミトリは手早く準備を済ませて、天降あまくだった。

「相変わらずよそよそしい子ねぇ。でも紳士に育ってくれて、アタシはうれしいわぁん」

アメノミトリが楯部たてべ(武器や祭器として楯を造る人)として、オオクニヌシの神殿の装飾の楯を造り始めた所が、楯縫たてぬいの郡だ。

カムムスビが代表して命令を下したが、宮の造営は高天原の意思でもあった。
その後、大勢の天の神々が出雲いずもの郡に参集して、オオクニヌシのための神殿を築いた。そんなことから、その地を杵築きづきの郷といった。
そして、空高くそびえる立派な神殿ができ上がった。それが現在の出雲大社いずもたいしゃである。竣工しゅんこうを祝して百八十柱もの神々が、佐香さか河内かうちに集まっていた。そこに料理場を建てて、酒を醸させた。それから百八十日酒盛りをした後、解散した。

こうして、オオクニヌシの時代が終わったのだった。