ホアカリ

十四の丘

オオクニヌシは全国の美しい女神たちと逢瀬おうせを重ねた。そして多くの子供をもうけた。その数、一説には百八十柱にも及ぶという。
播磨はりまの国のホアカリも、たくさんいるオオクニヌシの子の一柱だ。そのホアカリは気性も行動も激しく、父神は手を焼いていた。

(はあっ……あいつ、マジでありえないよ。すぐキレるし、物に当たるし。品行方正で才色兼備な僕とは大違い。本当に僕の子供なのかな。実は、天孫だったり大和やまとの神だったりするんじゃない? ……って、何意味不明なこと言ってるんだ僕は。……そうだ。いっそ捨てて逃げちゃおう。うんうん、それがいい)

ニヤリとしたオオクニヌシは、さっそく憂いの元凶のところへ向かった。

「ねぇ、ホアカリ、ちょっと水みに出かけるんだけどさ、手伝ってくれる?」

「あ? めんどくせぇし、行かねーよ」

「まあまあ、そう言わずに。因達いだて神山かみやまの美味しい湧き水だよ?」

「山か!? なら行く」

(息子がアウトドア好きで良かった)

言葉巧みにたぶらかすのは彼の特技だ。
こうして因達の神山まで、まんまとホアカリを連れ出したオオクニヌシ。その子が水を汲みに行っている隙に、急いで川に船を出して逃げ去ろうとした。

「親父ぃ、汲んできたぞ……っていねぇ」

ホアカリは父がいたはずの場所まで戻ってきたが、その姿がない。不審に思ってきょろきょろ見渡すと、父神の乗った船が出発するところだった。

「あンのくそ親父! 俺を置き去りにする気か、ザッケンナコラー! ぜってぇ許さねぇ……うおおおおお、風よ猛れ! 波よ狂え! あの船をぶっ潰せぇ!!」

怒り恨んだホアカリは神力で風波を起こし、父の船に追い迫った。

「うわっ、なんだ? 急に川が荒れて……進めないっ。わわわわ、飛ばされるぅぅぅ!」

激しい嵐に、ついに船は丘の上まで吹き飛ばされ、粉々に打ち壊された。それが由来で、そこを船丘ふなおか波丘なみおかというようになった。
ホアカリの起こした暴風はそれだけにとどまらず、周囲のあらゆるものを飛び散らかした。琴が落ちた所は琴神丘ことかみおか、箱が落ちた所は箱丘はこおか梳匣くしげが落ちた所は匣丘くしげおかが落ちた所は箕形丘みかたおかみかが落ちた所は甕丘みかおか、稲が落ちた所は稲牟礼丘いなむれのおかかぶとが落ちた所は冑丘かぶとおか沈石いかりが落ちた所は沈石丘いかりおか、綱が落ちた所は藤丘ふじおか、鹿が落ちた所は鹿丘しかおか、犬が落ちた所は犬丘いぬおか蚕子ひめこが落ちた所は日女道丘ひめじおかと名付けられた。
命からがら、ほうほうの体で帰宅したオオクニヌシは、妻のノツヒメにこうこぼした。

「悪い子から逃げようとしたら、かえって辛く苦しい目に遭っちゃったよ……いやぁ、まいったね。てへ」

「てへ、じゃありません。私たちの愛しい子です、もっと大切にしてくださいね」

「は~い」

そんなわけで、そこを名付けて酷塩からしおといい、苦の斉くるしみのわたりといった。